“陶芸教室を準備中”
  私は現在、ISOのコンサルタントをしていますが、当時、会社勤めのころ、二束の草鞋で陶芸家もしていました。その時代に作成した作品の一部を紹介したいと思います。東京で建設会社に勤務。当時の仲間から、「久坊先生」と言うニックネームを頂き、その気になっていました。そして「久坊先生」を演じ、偉そうに陶芸作家気取りでいました。今振り返ると、私は一端の陶芸家みたいでした。
  その頃、「久坊先生」は作品を公募展に出品したり、個展を実施したりしていました。

私が、勤務していた建設会社は、勤務年数に応じて、有給休暇以外の休暇が取得できました。そして何をしようと報告義務がなかったから。
  さて、当時の“久坊先生”が色々と作陶した今迄の公表作品や手元に残ったお気に入りの作品を掲載して参ります。
会社勤めの後、ISOのコンサルタントを開業。コンサルタント活動のために作陶活動を一時中断。その後、老後の楽しみのために陶芸工房を少しづつ片付け始めました。そこで昔を思い出し、懐かしいものや私のお気に入りの作品をまとめてみました。
  私は、若い頃に作陶手法の一つである、ろくろに興味を持ち、徹底的にその技法をマスター。 ロクロの面白さは、狙った微妙な曲線が指先やコテで作ることができるからなのです。
紹介する作品はロクロ技法による作品が中心。ところで、左下にある「急須」の写真が、ロクロで成形されたのを不思議に思われることでしょう。それもそのはず。本来なら、ロクロ成形では作品が左右対称になることと思われるでしょう。 でも急須の場合は「急須本体」、「取っ手」、「注ぎ口」、「蓋」の四つをそれぞれ、ロクロ成形。
その後、成形した、それぞれ4つの部品を本体に合わせて加工。最後に貼り合わせて出来上り。土を貼り合わせるとは、どう言うことかと疑問に思われた方のために解説すると、既に作成済みの四つのパーツが生乾きの時、急須本体に合わせて夫々を密着するようにナイフやヘラで加工し、パーツと本体にドベ(粘土を水に溶いたもの)を塗り、貼り合わせ接着。 ここでイキナリ急須作成の解説を致しましたが、陶芸技法は急須の作成に集約されていると言っても過言ではありません。そして一人前の陶工になるには、避けて通れない過程だからなのです。
能書きはこの辺でおえ、私の作品を紹介していきましょう。
「ゴブレット」

まず、評判の良いゴブレットの紹介。 右に掲載したゴブレットは、鉄分が含まれている生地(粘土)にベンガラ(酸化鉄)で染付け(絵付け)し、灰釉(藁灰と松灰)を掛けて焼成したもの。
工程は、ゴブレットを乾燥させた後、素焼きにします。
その後、下絵をつけて、釉薬をかけ、本焼にします。
左に掲載した写真は、磁器土に呉須(コバルト)で染付し、透明釉(ガラス質=硝石主体の釉)をかけて焼成。いずれも、ガス窯で還元焼成したもの。通常、
磁器土の場合、上絵付けが一般的。しかし、染付は呉須のみを使用しており、低火度の絵具を使用しないので、下絵付けの方が、仕上がりが綺麗になる。

≪参考≫
「上絵付け」と「下絵付け」については、染付大皿の説明を参照。

「マグカップ」
マグカップは、美味しいビールを飲むために作成。これはユーザーから評判が良かった作品。手前のは薪窯で焼成したもの。後ろの二つは、ガス窯で焼成。また土の種類も手前のものと後ろのものは異なります。手前の物は磁器に近い鉄分の少ない土を使用。 参考までに、釉薬を使用しないで焼き締めたマグカップで飲むビールは格別に美味しい。 それは、ビールの泡がなかなか消えないからなのです。
「焼締扁壷

この扁壷は、鉄分の多い土を使い釉薬を掛けずにガス窯で焼成。この扁壺は、ロクロ成形したもの。
まず、壺本体をロクロで普通に鉢を作るようにして、成形。
次にロクロを回しながら、徳利などを作る要領で、徐々に口を塞いでいく。形が“おまんじゅう”のように平らにして出来上がり。それをロクロから切り離して、生乾きにした後、“おまんじゅう”の裏側をヘラで削り、上下対称に整えて本体とする。
その後、別に口の部分と台の部分を別々に成形したものを夫々を加工し、貼りつけて出来上る。
染付大皿」
染付大皿は、最初にロクロで成形し、乾燥したら低温で素焼きをし、そのあと主に呉須と酸化鉄などを使用して下絵を描く。
次に、透明釉をかけて、ガス窯で還元焼成したもの。
この方法を陶芸の世界では「下絵付け」すると、言われています。
磁器などでは、先に透明釉をかけ、焼締た後に絵を描き、再度窯に入れて低温焼上げ、絵を定着させます。
この方法を「上絵付け」と言います。
自然釉大皿」(左写真:直径50cm)は、薪窯で還元焼成。これは赤松の薪を燃料にし、焼成したもので、付着した薪の灰が壺の表面に付着。その灰が釉薬となり、付着量が少ないと生地(粘土)の鉄分と化学反応を起こし、茶色っぽくなる。 そこそこ灰の量が付着すると、白っぽくなり、さらに灰の付着量が多くなると、青色っぽく、なります。焼成方法には、還元、中性、酸化があり、釉薬や生地(粘土)に含まれている金属を狙い通り化学変化させることによって目的の色に発色させます。中央付近の丸い模様は、窯の中に入れて焼く際に、模様の箇所に一つ皿を置いたために灰が掛からなかった。そして皿を置いた周囲には灰が掛ったために色が付いたもの。
染付大鉢」  これは酸化第二鉄で絵を描き、松灰を施釉した作品。もう歳なので、このような大作はできなくなるのでは?  高さが、17㎝。幅が、47㎝の作品。このような大鉢は、焼成過程で、口が広がったり、亀裂が入ったりし易いのですが、口の部分を厚くすることで、胴の部分を薄くしても力学的に理に適っており、形が安定します。同様に上の焼締大皿も亀裂が入らないように縁を熱く仕上げている。

薪窯で焼成した大壺
土は信楽特有の石英粒が入った粘土を使用したもので無釉薬で窯まかせの作品。窯の中で灰の付着量によって夫々の表面が変化します。
この石英粒が入った荒々しい粘土をロクロで引くと、手が痛くなりますが、素手で成形することによって、表面に擦れ傷が出なくなります。
その結果、焼き上がった時に作品の表面に出た石英の粒が綺麗に収まるから。
サイズは、高さが41.5cm、幅が41cmの大作。若かりし頃、公募展に出品した作品で、石英粒を夜空の星に見立てて、猩々と命名。展覧会では東京都知事賞を受賞した作品です。